干し柿から見える自然の恵みを享受する知恵

2018年10月25日(木)

干し柿では有名なブランド「市田柿」を乾燥させている風景

秋は里山でさまざまな実りが得られる季節です。里山で暮らす人たちは、自然の恵みを余すことなく受け入れる知恵を編み出し、受け継いできました。
その一例が干し柿です。歴史は古く縄文~弥生時代の遺跡から種が出土しています。平安時代の法令集『延喜式』には、祭礼で干し柿が利用されていたことが記録されています。
ところで一般的に干し柿は渋柿から作られることをご存じでしょうか。柿の糖度は甘柿よりも渋柿の方が高いのだそうです。メロンやブドウよりも甘いというから驚きです。ところが生の渋柿はとても渋いですよね。それはタンニンという成分のせい。水溶性のため唾液に溶け出して渋さが広がるのです。対する甘柿もタンニンを含んでいるものの、不溶性なので唾液に溶け出さず渋味を感じません。
時代を巻き戻します。はるか昔の人々は、不思議なことに渋柿を干すと甘くなることに気付きました。後の時代に分かったのが、「干して水分が抜けると、タンニンが不溶性に変化する」ことと「もともとの糖度が高いから甘くなる」ことでした。とても科学的な理由だったのです。
ちなみに干し柿は干しているうちに白い粉が浮いてきます。粉の正体は柿に含まれる果糖が表面に集まって結晶化したもの。砂糖のない時代に、削り取って甘味料として使ったという話も残ります。
今回は柿を取り上げましたが、このほかにも昔の人が編み出した食にまつわる知恵はたくさん。ぜひ里山を訪ねてさまざまなものを味わってみてください。

特定非営利活動法人里山保全再生ネットワーク

岩間 敏彦

特定非営利活動法人里山保全再生ネットワーク代表理事。本業(ライター・カメラマン等)で培った技能を生かして社会貢献をしたいと考え、里山保全を始めとする環境保護活動に参加してきた。現在は里山保全・再生に軸足を置きつつ、複数の環境NPOで代表理事・理事などを務める。