世界農業遺産に認定された、阿蘇の草原が抱えている問題
2013年7月19日(金)
世界農業遺産に認定された、阿蘇の草原が抱えている問題
5月末、嬉しいニュースが飛び込んできました。世界農業遺産(GIAHS)に、熊本県阿蘇地域、静岡県掛川市、大分県国東半島宇佐地域が登録されることになったのです。
世界農業遺産は、伝統的な農業や文化風習を守ったり、生物多様性を保全したりするために、国際連合食糧農業機関(FAO)が認定するものです。日本では2011(平成23)年6月に、新潟県の佐渡と石川県の能登が選ばれています。今年、登録が決まった地域も含めて、それぞれに特徴があるのですが、今回は阿蘇地域についてご紹介しましょう。
阿蘇は世界最大級のカルデラとして有名ですが、里山的に利用されてきた広大な草原も多くの人を魅了してきました。「草原も里山?」と思う方が多いかもしれませんが、草原の植物は、民家の屋根を葺くための茅(屋根材になる草の総称)や、飼料(牧草)、肥料などに利用されてきました。そのおかげでヒゴタイやハナシノブといった阿蘇特有の草原植物や、草原性のチョウなど、多くの動植物がいのちをつなぐ場が保たれてきたのです。
阿蘇の草原を保全する上で大きな役割を果たしてきたのが、春に行われる野焼きです。草原を放置すると森林化が進んでしまうため、人々が山に火を放つことで草原の状態を保ってきました。しかし、近年は化学肥料の普及や、茅葺き屋根の減少、畜産業の低迷、過疎化・高齢化による野焼きへの参加者減少などより、放置された草原が増えています。今回の世界農業遺産登録が、阿蘇の草原保全を後押しすることを、心から願うばかりです。
(社内報kami-cocoro 里山マイスターの「里山通信」vol.14を転載)